あけましておめでとうございます!
今年は、日本にとって平成が終わり新しい時代が始まる、大きな転換の年となります。そして、世界が最も注目する世界最大の祭典・東京オリンピック・パラリンピックが、いよいよ来年に迫りました。
十八世紀にヨーロッパで産業革命が起きて以来、人類は『物が豊かになること』『お金はが沢山儲かること』イコール『幸福』であるというロジックの元に、主に欧米が世界を牽引する形で突き進んできました。目に見えるもの、ロジカルに計れることだけを信じるという価値観。日本もそうしたロジックの中で、戦後復興を遂げることが出来ました。
しかしながら、価値観の衝突、原理主義の台頭、自国第一主義のリーダーの出現、全員に1番になることを目指させる教育、その反動の1番になれず脱落していく多くの人々を生み出す世相、それらの人々を救い上げる手段の喪失など、その歪みが、もはや止めどなく世界や、特に欧米社会を席巻する事態となりました。
私は、欧米的な価値観・西洋文明はもはや限界が来ているのではないかと思っています。
世界が迷走し先の見えないトンネルで暗中摸索する中で、今、世界は日本をはじめとするアジア・東洋に注目し始めてきたのだと実感します。(四年前に文化庁文化交流使として世界を廻って感じたことです。)
そして、能をはじめとする日本古来の文化には、今世界が直面している諸問題に対して、ひとつの突破口となるヒントが隠されているように思うのです。
能には、神も仏も一緒に登場します。
『異なる』ということを受け入れて、日本人の『おおらかさ』を描きます。
能で描く「鬼」は、絶対悪ではなく誰もが共感できる『敗者の悲哀』があります。「鬼」と「神」は表裏一体です。
地謡やお囃子が奏でる『間』の世界。申しあわせ(通しリハーサル)を一度ないしはゼロで本番を迎えて、能楽師は本番の舞台の上でぶつかり合います。『あうんの呼吸』『忖度』等と言われるように、日本人には目に見えない心を推し量り、大きな価値を見出だします。
また能は『余白』の芸術であり、簡素な舞台装置の中で、観客の想像力に喚起させて自由に無限に世界を描きます。
歴代『天下泰平』を祈念されてきた我が金春宗家の初代は、大陸からの渡来人です。能楽最古の歴史を背負われている我が金春宗家は、その存在自体が既にとてもグローバルな存在といえます。
能は大陸からもたらされた宗教・文化・芸能と、日本固有の宗教・文化・芸能をミックスして独自に練り上げられた『ハイブリッド』な芸能です。様々な異なる価値観が共存する、様々な要素を併せ持った、古くて新しい芸能なのです。
この二十一世紀は、日本がリードする形でアジアの人々と連携して、このアジアから新しい価値観が、世界に、特に西洋文化圏の人々に広まる。
我が能楽が、そして我が金春流が古来より伝来してきた心が、正にその根幹となり得るのだと、私は確信します。
その心とは、決して自分達が1番で他が駄目とかいうものではない、『自国にプライドを持ち、且つ他者をリスペクトすることが出来る心』です。
能楽を広めることで日本が変わり、また世界が変わる。
今後100年の日本や世界の歴史の歩みの中で、この数年間は、大変大きな意味を持つと思っています。
正にここが、踏ん張り処なのです!!
この心を、今年も多くの皆様にお伝えしていきたいと思います。
本年もどうぞよろしくお願い致します。
金春流能楽師
山井 綱雄
◎2019年主な舞台予定◎
3/2土曜日 円満井会 12:30~ 矢来能楽堂
能「鉢木」 シテ
4/20土曜日 横浜能楽堂主催公演
横浜能楽堂
「翁」 シテ
6/2日曜日 金春会 12:30~ 国立能楽堂
能「盛久」シテ
7/7日曜日 二木屋 七夕の夕べ
是界 シテ
7/13土曜日 「サキの國」再演
14:00~ 磯子公会堂
9/22日曜日 第17回春綱会 国立能楽堂
山井綱雄社中の発表会
10/5土曜日 二木屋薪能
能「猩々」シテ
10/25金曜日 第14回山井綱雄之會
18:00~ 銀座・観世能楽堂
11/23土曜祝日 和心伝心
調布グリーンホール