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Channel: 能楽師・山井綱雄の~日々去来の花~
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人間国宝亀井忠雄先生との真剣勝負!

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今年最後の舞台!

観世流武田文志くんの「文の会」。お目出度い第一回の記念公演を、今年4月にオープンしたばかりの今話題の銀座シックスにある観世能楽堂にて開催、私は一調「雲林院」にて、出演させて頂きました!

観世能楽堂には、今年の開館以来舞台披き公演から3度目となる出演でした。

見所は、満席!当日券も全く無し。
スゴい!

私が勤めさせて頂いた一調(いっちょう)とは、謡一人・鼓一人による、正に一騎討ち。
鼓は普段の能では打たない特別な手を打ちます。
1対1の、タイマン勝負なのです。
なので、相当な緊張感になります。


私のお相手をして下さるのは、現代能楽界最高の囃子方、人間国宝亀井忠雄先生。

事前にお電話を差し上げて当日お手合わせをとお願い申し上げて、「じゃあ早めに行くからな」と仰った忠雄先生を、早めに楽屋入りしてお待ちして、忠雄先生お着きになられたら、一度楽屋でお手合わせをして頂きました。

「そこ、閉めて。」忠雄先生がそう仰り、能楽堂の楽屋というのは、個室ではなくオープンな和室なのですが、全ての襖を閉めて、忠雄先生と私の二人っきりでの、お手合せとなりました。

「そこ座って。」忠雄先生の左隣に座り「宜しくお願い致します。」とご挨拶して、一調「雲林院」申し合わせのスタート。

和室内には、忠雄先生と私だけ。

これだけで、相当の緊張感!!


思えば、忠雄先生に私の主催公演「山井綱雄之會」の旗揚げ公演にご出演頂いたのが、14年前。
当時、忠雄先生に恐る恐る面と向かって直談判で、出演のお願いをしたことをよく覚えています。

すると忠雄先生から、「お前、平さん(祖父梅村平史朗のこと)の孫なんだってな。平さんは、謡が上手かったぞ。いい謡だったなあ。」
いきなりこう言われて、ビックリしたのをよく覚えています。
私は全く知らない祖父の芸が、忠雄先生の中にも残っておられるのが嬉しく、有難い思いでした。

それから、私の会には、かなりの出演をして頂きました。
そうした真剣勝負の舞台から、色々なことを学ばせて頂きました。


そうした中での、今回の忠雄先生との、初めての、一調での、一騎討ち。

そんな想い出も、私の頭には浮かびました。


そして、今回の武田文志くんの会への出演は、文志くんとの長年の友情からの出演となった訳で、今回呼んでくれた文志くんへの祝意を込めて、勤めさせて頂きました。


そして、もうひとつ、他流の出演は私だけでしたから、金春流を代表して、という気持ちもありました。
なので、恩師79世金春信高先生から頂いた扇を差して、長老高橋汎先生から頂いた錦の帯を締めて、祖父の形見の袴を履いて、舞台へ出ました。
信高先生も祖父も、「頑張れよ!」と言って下さっているように聞こえました。


さて、一調雲林院はどうだったかというと、今自分の持てるものを全てぶつけました。
「忠雄先生との一騎討ち」という面もそうですが、雲林院という伊勢物語の世界もしっかりと表現したいと思いました。欲張りかもしれませんが。

そういう意味では、今の自分を出し切ることは出来た、これだけは言えます。
「反省」はあっても「後悔」はありません。


そして、これはある意味そうなるのではと予想していたのですが、舞台は極限に緊張状態でしたが、その中に、忠雄先生の優しさを感じました。
絶妙な間と掛け声だったのですが、そんな中で、「お前がやりたいことを全て受け止めてやる。」というような優しさを感じました。
一騎討ちなのですが、忠雄先生の愛に包まれているような。
これは、上手く言葉では表現出来ません。




兎に角、今年は舞台が元旦に始まり、激動の1年でしたが、その1年の最後に相応しい、能の極限を体感し、最高の先生にお相手頂き、勤めることが出来ました。
私の能楽師人生の中でも忘れることの出来ない1ページとなりました。

忠雄先生、ありがとうございました!!


そして、私は、心穏やかに(笑)、武田文志くんの大曲「定家」を拝見。

私は鏡の間(揚げ幕の裏側の神聖なスペース)の隅っこにて、拝見させて頂きました。
能はメンタルな芸術ですから、舞台に上がる前のプロセスが大切であると謂われます。

鏡の間には大きな三面鏡があり、能のシテだけがそこに座り精神統一します。

他流の鏡の間でのシテの出を拝見出来るのは中々ないことなので、これも大変に勉強になりました。
また、シテの文志くんが、三面鏡から立ち、幕に向かうタイミングが、私がここだと思う同じ間で立ち、私と同じだったのは個人的には面白かったのです!

また、幕の前にて息子を送り出す父君の志房先生が正座をして、幕の前に立つ息子を見上げる、その何とも言えない万感の表情が、とても印象的でした。

ああ、やはり能は凄い!そんなことを思いました。


そして、「定家」もしっかり拝見しました。

流石、文志くん。寸分の隙もない、しかし目一杯緊張感ある、美しい舞台でした。
そして、廻りを支える最高峰の共演者が、しっかり文志くんを支えていて、全てに於いて文句の附けようのない舞台でした。
また、私個人的には「定家」を謡わせて頂いたばかりでしたので、地頭の人間国宝野村四郎先生が統率される地謡を、なるほど!と思いながら拝聴しました。

文志くんの能は実は久しぶりに拝見したのですが、おお!やるなあ!と率直に思いました。
偉そうな言い方に聞こえるかもしれませんが、文志くんも成長して能楽の王道を行っているなあ、と思いました。

俺も頑張ろう!そう想える、大いなる刺激を受けた、素晴らしい舞台でした。

また色々なことが、参考になりました。

1年の締め括りで、素晴らしい会に出演させて頂きました。

文志くん、おめでとう!お疲れさまでした!
そして、ありがとうございました!


これで、私の今年の舞台は全て終わりました。

まだ、稽古や年明けのリハーサルなどもありますが、ゆっくり心と身体を休めたいと思います。








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